軽貨物は稼げない?──17年の現場で見た“光と影”とリアルな手取り
催事の現場に“構造の壁”があるように、
軽貨物の世界にも、努力だけでは越えられない現実があります。
17年間、この仕事の光と影を見続けてきました。
■ 軽貨物運送の光と影──17年の現場から見えた真実
軽貨物配送の世界は、誰でも始められます。
しかし、誰でも続けられる仕事ではありません。
SNSには「稼げる」「自由」「未経験OK」といった言葉が並びますが、その裏側を知る人は多くありません。
私はこの世界に入り17年。
光も影も、すべて見てきました。
■ 宅配の光──若さと体力があれば確かに稼げる
宅配は、若さ・体力・根性が揃っている人にとっては、確かに稼げる世界です。
真夏でも真冬でも、1日150〜200個の荷物を淡々とこなせる人は、月70〜80万円の売上を安定して出します。
これは事実です。
■ 宅配の影──中年には厳しい現実
しかし、中年になると状況は一変します。
- 体力が続かない
- スピードが落ちる
- 稼げるエリアはベテランが押さえている
- 新人に回るのは効率の悪いエリアばかり
結果として、多くの新人が3ヶ月以内に辞めていきます。
だから常に募集が出続ける。
この構造は17年前から何も変わっていません。
■ 宅配と同じ構造の“もう一つの地獄”──ネットスーパー配送
宅配と非常によく似た働き方に、ネットスーパー配送があります。
扱う荷物の中心は、
- 米
- 飲料のケース買い
- 調味料
- 洗剤
- ペットボトルのまとめ買い
つまり、お客様が自分で持ち帰りたくない“重いもの”ばかり。
そして不思議なことに、こうした重量物を注文するお客様ほど、エレベーターのない団地や4階・5階に住んでいる割合が高い。
真夏の午後、汗が滝のように流れる中で階段を何往復もする。
荷物を抱えた腕は痺れ、息は上がり、視界は汗で曇る。
これは誇張ではなく、ネットスーパー配送の“日常”です。
しかし、そんな過酷な階段上げの最後に、お客様の「ありがとう」のひと言をいただくと、それまで登ってきた階段が、まるで山路だったかのように思えて、見える景色がふっと変わります。
あの一言があるから、また次の階段を上れるのです。
それでいて収入は、1日10時間働いて13,000〜15,000円が平均。
ここから経費を引くと、実質の手残りは9,000〜11,000円/日程度。
時給に換算すれば、900〜1,100円。
宅配と同じく、体力を削りながら働いても、手残りは決して多くありません。
■ 経費の現実──売上=収入ではない
軽貨物ドライバーはフリーランスです。
売上からは、生活に必要なすべての経費が差し引かれます。
- 車両費
- 駐車場代
- 任意保険
- ガソリン
- 国保・年金
- メンテナンス
- 消費税(インボイス)
私の経験では、毎月15〜20万円は確実に消えていきます。
平均的な売上30〜50万円では、コンビニのアルバイトより時給が低くなることも珍しくありません。
■ 3つの働き方──宅配・ルート便・スポット便
軽貨物の働き方は大きく3つ。
- 宅配(個人宅配)
- ルート便(企業間配送)
- スポット・チャーター便(長距離・緊急便)
例えるなら、
- 宅配=都営バス
- ルート便=ハイヤー
- スポット便=タクシー
それぞれに光と影があります。
■ ルート便──安定はするが手残りは少ない
ルート便は体力勝負ではなく、高齢でも続けられる働き方です。
しかし、
- 入会金・保証金
- マージン20%前後
- 月25日稼働で売上40〜50万円
- 手残り15〜25万円
「安定はするが、大きくは稼げない」
これが現実です。
■ スポット便──夢はあるが打率は2割
スポット便は長距離の“ホームラン”を狙う働き方。
一発の運賃は高い。
しかし、
- 仕事の打率は2割以下
- 早朝・深夜の不規則な依頼
- 何日も坊主
- 土手や公園で待機する車両の列
夢はあるが、安定とは程遠い世界です。
■ 第3の働き方──アプリで顧客と直接つながる時代
近年、軽貨物の世界には「第3の働き方」が生まれました。
それが、顧客と配送員を直接つなぐアプリ型プラットフォーム。
ここでは、
- 宅配
- ネットスーパー
- ルート便
- スポット便
あらゆる案件が全国規模で流れています。
運送会社に所属する必要はなく、保証金も手数料もなく、自分が請けたい案件だけを選んで働ける。
一見すると、これこそが“自由な働き方”に見えます。
しかし、この世界にも光と影があります。
■ 光──自由・高単価・ホームラン案件
アプリには、通常のスポット便では見ないようなホームラン級の案件が流れることがあります。
- 長距離チャーター
- 深夜の緊急便
- 高単価の特殊案件
タイミングが合えば、1本で数万円〜十数万円の仕事もあります。
会社に所属しないため、マージンも引かれません。
「自由」と「高単価」
この2つがアプリの最大の魅力です。
■ 影──レッドオーシャンのサバイバル
しかし、問題はここからです。
アプリの世界は、案件数より登録者数のほうが圧倒的に多い。
1本の案件に対して、
- 数十人
- 多いときは数百人
が一斉に手を挙げます。
まるでオークションのような世界で、案件を取れるかどうかは“運とタイミング”に左右される。
さらに、アプリの多くは顧客評価システムを採用しています。
- 評価の高い配送員 → 優先的に選ばれる
- 評価の低い配送員 → ほぼ選ばれない
- 新人 → そもそもチャンスが回ってこない
つまり、自由の裏側には、過酷な競争がある。
■ 自由と引き換えに失うもの──守られない働き方
アプリは会社に所属しないため、守ってくれる存在がいません。
- 事故渋滞で遅れた
- 体調不良で行けなかった
- 車両故障でキャンセルした
理由に関係なく、評価は下がります。
厳しいアプリでは、アカウント停止=収入ゼロになることもあります。
自由の代わりに、安心と安定を手放す働き方。
すべてが自己責任で、誰もあなたの生活を守ってはくれません。
■ 白くま便の立ち位置──内野ゴロとバントの会社
実は、我々「白くま便」も軽貨物車両が中心です。
冷蔵・冷凍の食品配送を専門とし、ルート便とスポット便を得意としています。
では、白くま便も保証金や20%のマージンを取るのか。
スポット便はホームラン狙いなのか。
答えはNOです。
白くま便が中心としているのは、都内百貨店や駅構内の催事配送や冷蔵冷凍食品の企業間配送です。
極稀に大阪などの“ホームラン”もありますが、基本は首都圏内の配送で、内野ゴロやバントを確実に決めていく仕事です。
フリーランス配送員から入会金や保証金はいただきません。
ただし、配送便ごとに価格設定を行い、八百屋やスーパーと同じく“差益”をいただいています。
■ 白くま便を支える人たち──個性豊かな、不揃いのチーム
ストレートの社員5人の平均年齢は55歳。
フリーランス配送員の平均年齢は70歳。
役員2名を含め、総勢15名の零細運送会社です。
少数精鋭ではありません。
私を筆頭に、どこか不揃いで、個性豊かなチームです。
だからこそ、互いを大切にしなければ会社は回りません。
私はこう信じています。
会社に大切にされたスタッフは、その先のお客様を大切にする。
施しは次の誰かへ渡っていく。
補助金をいただき、今日まで事業を続けさせてもらっているストレートの使命は、その善意の輪を絶やさないことだと肝に銘じています。
■ 最後に──軽貨物配送員は“職位”であって人格ではない
軽貨物運送業は、社会的地位が高いとは言えません。
心ない言葉を浴びせられたり、不適切な応対を受けることもあります。
しかし、どうか忘れないでください。
軽貨物配送員は“職位”であって、その人の人格ではありません。
裸で風呂に入れば、年齢や容姿が違うだけで、みんな同じ人間です。
今日も汗だくで走り回る配送員がいます。
その人も、あなたと同じように家族がいて、同じように悩み、同じように笑う人間です。
どうか荷物を受け取るときは、温かい笑顔を向けてあげてください。
その一瞬の優しさが、誰かの一日を救うことがあります。
軽貨物の現場には、荷物だけではなく“人生の荷物”を抱えた人たちがいます。
次のコラムでは、その荷物をもう一度背負い直した人の物語をお届けします。
株式会社ストレート(白くま便・白くまストック)
代表取締役 牛沢 昭宣
2026年4月27日